もらい湯精神

1. もらい湯の精神に出会うまで
私が温泉と真剣に向き合うようになったのは、ある地方の小さな湯治を訪れたことがきっかけでした。
湯船に浸かった瞬間、身体がじんわりとほぐれていくのを感じると同時に、「この湯は自分のためだけにあるものではない」とふと思ったんです。
自然から湧き、地域の人々によって守られてきた湯を、私は「もらっている」と。
この感覚が、のちに「もらい湯精神」として私のルーツになりました。
2. 文化としての温泉 (人の手)
温泉は、自然に湧き出るものですが、それが 「温泉文化」 として成り立っている背景には、人の手が必ずあります。
湯を守るために日々調整を行う湯守さん、浴場を管理する番頭さん、浴場を代々守り継ぐ地元の人たち。
彼らの手によって、私たちは気持ちよく湯に浸かることができているのです。
だからこそ、私たちが湯をいただく際には、そうした「見えない努力」に思いを馳せ、敬意を払う必要があると感じています。
3. 自然の恵みとしての湯 (自然)
温泉は自然そのものの力でもあります。
地球の内部から湧き出すこの 「地球の体液」 に浸かる体験は、自然のエネルギーを全身で受け止めるものです。
湯の温度や香りなど、五感を研ぎ澄まして味わうことで、私たちは自然との一体感を取り戻せる。
そして、この 「自然をいただく」 という感覚もまた、「もらい湯精神」 なのです。
4. ユーミーズへの思い
この「もらい湯精神」をもっと広げたい。日本中の温泉を正しく楽しく体験してほしい。
そんな思いから、私は温泉を愛する同士とともに創業し、温泉データベース「ユーミーズ」を創りました。
湯の個性や背景を知ることで、入浴体験は何倍にも豊かになる。
それを多くの人に伝えたいという想いを、ユーミーズに込めました。
5. 原状復帰
最後に一つ。忘れてはならないのが、「原状復帰」 です。
湯をいただいたあとは、来たときと同じように浴場を美しく整えて帰ることが大事です。
湯船の縁にタオルを置かない、脱衣所の椅子を戻すなど、小さな気遣いの積み重ねが、温泉の環境を守り、次の人への贈り物になります。
これもまた、「もらった湯」 に対する感謝の表現だと私は思っています。
湯は、ただ温まるためのものではありません。文化と自然と人の想いが交差する、日本が誇るべき体験です。
だからこそ、「もらい湯精神」を忘れずに次の世代へ、そして世界へと、この豊かさをつないでいきたいと願っています。
── 株式会社enkake 代表取締役
井出辰之助